効率的な勉強方法を考える part3 〜問題演習編〜

この内容は
効率的な勉強方法を考えるPart1
効率的な勉強方法を考えるPart2
の続きです。読んでいただける方はそちらからどうぞ。


以下本文です

このシリーズの基本的な考え方は
・方法論の理論背景をさぐる
・方法論は具体的に書く
です。part1,2もできるだけそうしてきましたが、もう少し具体的に書いてみます。主張は


単語帳の使い方と本質的にはまったく同じ


です。そんなにたくさんコツはありませんから。


8.理解と計算の練習の関係

この議論は「4.丸暗記と単語帳のすすめ」でも書きました。当然理解した方が覚えやすいのですが、ブログでそう書いても「つまりどうすれば・・・?」になってしまいます。おそらく勉強をされているほとんどの方は


  「丸暗記でなく、理解できて自然に頭に入るならその方がいい


と思っていらっしゃいますので、それに対するアドバイスとしては、個別の問題について理解の仕方やイメージを説明するしかありません。一般論が一段落して時間ができればやってみます。


9.「管理可能差異」かつ「管理していない差異」が大切


勉強の「質」をあげる

響きのかっこいい言葉ですが、同時に「つまり何をすれば?」という問に答えるのはとても難しい質問です。例えば
「基礎を大切に」
「計算は毎日やる」
「理解することが大切」
と答えても、この長い文章を読んでいただいている方の集団(≒この命題が重要だと考えている方の集団)に属する方は、おそらくその結論にはいきついていらっしゃいます。


ですから、少し軸を変えて論じます。こういった啓蒙(?)的文章で、大切なことは「管理可能」な「管理していない差異」について述べることだと思いますので。


確かに「理解」は大切ですが、理解力のある人の「理解することが大切ですよ」というアドバイスは50mを8秒台でしか走れない人に「7秒で走ればいいんですよ」といっているのと同じです。私の教師としての経験を踏まえて述べればおそらく「理解力」は「公認会計士の勉強を始める時点でほぼ先天的(=生まれつきの能力とそれまで育った環境)」です。つまり「公認会計士の勉強の方法論」としては各論点に対して「この問題はこう理解・イメージすればいいと思う」というアドバイス以外の一般論は「管理不能差異」に分類されます。従って述べる意味がありません。


「基礎」は大切ですが主張として抽象的すぎますし、本人が「基礎が大切だ」と自覚し「管理されている」方に「基礎が大切です」といったところでそれは「埋没アドバイス」です。従って述べる意味がありません。


いずれも、革命的な「方法論」を示せるなら話は別なのですが。


10.各勉強要素の「タイミングとバランス」を真剣に考える

本題です。今回は、


・一度授業を回したという前提で、実力練成をされている方


を対象に書きます。こういう条件下の方法論と


・初めての範囲を学習されている方


を対象としたアドバイスは少々異なります。このブログを読んでいただいている方は、前者が多いでしょうから、今回はそちらに絞ります。初学の方でアドバイスのほしい方がいらっしゃったらコメントください。


最も大きな主張は


「各学習要素のタイミングとバランスをしっかり考えよう」


ということです。ここまでこの文章を読んでいただいて、一定の説得力を感じ、方法論として参考にしたい、と感じられている方は、もう一度part1,2の2「記憶のメカニズムと効率的な復習方法」、4「丸暗記と単語帳のすすめ」5「単語帳の使い方2」を熟読されてから読まれることをお勧めします。その方がわかりやすいと思います。


さて、一度授業を回してから学習をされている方の学習の要素は大きく分けて


①問題を解く
②解答を読んで復習する
③該当部分のテキストを読んで理解する
④解答を閉じた状態での解き直し
⑤類題演習


に分類されると思います。この①〜⑤の要素をタイミングよく消化し、努力と時間をバランスよく配分ですることが本質的な課題です。細かいことをいうとわかりにくくなるので


・①→②③→④⑤をタイムラグ(忘却の滑り台)なく行うこと
・①②③は所詮準備段階で、④⑤に比率をかけなければいけないこと


の2本に主張を絞ります。


11.忘却の滑り台と各勉強要素のタイミング


結局「単語帳と暗記」のところと全く同じ主張なのですが、part1で述べたように記憶には幾つかの段階があり学習上は


a:記憶にない
b:海馬(短期)に記憶がある
c:大脳皮質(長期)に記憶がある


の3段階の理解が重要です。これは滑り台の下(a)と滑り台の途中(b)と滑り台の上(c)のようなイメージで捉えておくのがいいと思うのですが、b→aに滑り落ちる確率は高く、c→aに滑り落ちる確率は低くなっています。ですからbにいるときが「記憶する(=上りきる)最大のチャンス(=逃すと痛いから忘れやすいピンチともいえる)」になるのです。ですから、


①②③だけやって復習の④は後


という学習方法は非効率的なのですが、これを実践している方は結構いらっしゃいます。平日に授業を聞いて問題を解いて、週末に解き直し、とか。①②③④を必ず1セットで行うことが大切で、全体で時間を測らないといけない答練以外は


・大問1つごとに答え合わせ+間違えたら解答やテキストで理解+閉じて解き直し(できれば複数回)


を必ずセットで行うことが大切です。ポイントは


大問ごとにチェック
解き直しまでセット


の2つです。大問(テーマ)ごとの方が記憶がまだはっきり残っていますし、その方が時間効率もよいです。


ちなみに、解き直しについては短期間に複数回行う方が望ましいです。その理由については次のセクションで述べます。


12.各記憶構造の能力と時間配分のバランス

学習上は「短期記憶」「長期記憶」の2つで十分ですが、その他に「感覚記憶」と呼ばれている記憶があります。(名前の付け方は学者さんによって異なります)
「感覚記憶」とは「短期記憶」よりもさらに短い記憶で、例えば友達の電話番号を瞬間的に覚えたりする記憶で、数秒程度までの記憶をあやつっているそうです。これら3種類の記憶は


記憶時間が短いものほど覚えやすく、忘れやすい


という性質を持っています。確かに、そう進化しなければわざわざ構造を分化する意味がありませんし、理論的にもその形でないと意味のない構造の記憶ができますから当然なのですが、人体の神秘にはおどろかされます。


実際にはかなり複雑な構造ですが、単純にモデル化して考えてみます。ここでは


①外界からの記憶はいったん海馬(短期)に確率pで入る
②海馬に存在するうちに、もう一度復習すると確率qで側頭葉(長期)に移る


という非常に単純なモデルを考えます。ポイントはpとqの値の違いで、定量評価は難しいですが、qの方がかなり小さい(=記憶に残りにくい)といえます。例えば昨日何をしていたかは言えますから、人間の行動はほぼ全て何らかの形で記憶が残っています。すなわちpはかなり1に近いといってよいと思います。それに対してqですが、かなり小さいでしょう。無論このqは、本人の資質、育った環境、対象となる問題の複雑さ、理解の程度、何回目の復習か、等様々な因子に影響を受ける変数です。この数字を見積もるのは事実上不可能ですが、pよりは明らかに小さい、という性質が重要です。


少し数字を交えて説明します。数字は・・・という方は適当に飛ばしてください。


qは便宜的に0.2としてみます。例えば①と②をあわせて30回実行するチャンスがあるとして、15個の物事を①②1セットで行うと、1セットあたり長期記憶になる確率は0.2ですから、長期記憶の個数の期待値は3つです。
それに対して、①を1回、②を2回1セットにして10個の物事を対象にすると1セットあたり長期記憶になる確率は1−0.8×0.8=0.36ですから、長期記憶の個数の期待値は3.6つです。


このモデルでは効率が2割違います。(同じ勉強時間で2割多く覚えられる、ということです)実際には、②は2回目以降かかる時間が少なくなりますから加重計算の必要もありますし、q自体も数値として大きくなるハズですから、2割どころではないはずです。こういう効果は積で働きますから、いくつかの要素を上手くコントロールすれば、5割くらいの効率UPはわりと簡単に出来る範囲です。


ちなみにこの「2回セット−3回セット」モデルの均衡点となる確率は0.5です。つまり、初めて出てきた問題は一度復習すれば半分以上は完璧になる、という方は①②にかかる時間が同じなら2回セットモデルの方が効率がいいことになりますが、実際にはqの平均値は0.5よりははるかに小さく、特に簿記ではそんな人見たことありません。qの値が小さいほど、回数の多いセットの方が有利になりますが、精神的なつらさもありますし


1回解く→解けるようになるまで復習する→2回解き直し


くらいがバランスがよいと思います。単語帳なら4回〜5回1セットにするところですけどね。ちなみに解き直しですが、単語帳のところで理由を述べたようにアウトプットトレーニングが大切なので何も見ずに解けるようになってから2回解く、という意味であることに注意してください。


「テストで解けなかった問題は放置したら次も解けず、テストで出来た問題は次出てきても多分解ける」訳ですから、努力を「解けるか解けないか分からない問題を解くこと」に配分するよりも「解けなかった問題に対する努力」に多く配分することが効率的な勉強を考える上では大切です。個人差はありますが、そのことを意識して勉強することが高い効率につながると思います。




ここまで読んで頂いて


なんだ単語帳のときと言ってることおなじじゃねーか


と思ってもらえたら一番うれしいです。単語帳も、問題を解くのも、復習するのも、答練をやるのも、「自分の頭の中から紡ぎだせるようになる」という同じ目的を持つ訳ですから、効率的な学習方法を考えていけば、おのずと本質的には同じような方法論にたどりつくのが自然です。




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番外編 〜短答合格への道〜に続く