質問上手になるには?

今日書いていることは、先日のsakurakoさんの質問への返信です。私の考えでは、同じどころで詰まっている方が多いと予測されるのと、長くなるので本文にしてみます。管理会計論を、苦手にされている原因自体にはある程度、あたりがついていると思います。有効なアドバイスを出すのは難しいのですが、答えられる範囲でがんばって答えてみます。

1.シュラッター図の理解の方法

sakurakoさんは累加法やシュラッター図あたりで苦労されているということですが、このあたりから苦労される方が増えていく一番大きな理由は


計算の処理とその処理の意味がつながりにくい


ことだと思います。例えば先入れ先出しや平均法の計算は言葉のイメージと作業がリンクしやすく、「問題をなんとなく解く」過程を通じて、「計算の処理方法」と「なぜそのような計算になるのか?」が自然に身につきます。ところが、sakurakoさんが苦労されている累加法以降や、度外視・非度外視、シュラッター図や配合差異等の差異分析になると「計算をこなすだけでは、何を目指してそんなことをやっているのかがイメージしにくい」という特徴があり、苦手とする方が増えていきます。シュラッター図を苦手にされているということで、シュラッター図を例に挙げて説明します


図がないと説明しにくいのですが、私はブログ上に図をどうやったらのせられるかがわからないので、図を書きながら読んでいただくか、ネット上で図を検索しながら読んでください。すいません。とりあえず、標準時間まで入ると説明が長いので、「実際時間」と「基準時間」のみのシュラッター図を考えます。(そのレベルのシュラッター図は大丈夫、ということでしたらごめんなさい。そのときは標準まで入れて改めて説明してみます)図の中に「予算差異、正常配布額、予算許容額、実際発生額、操業度差異」を書いてください。(この場合横軸を個数にしたほうがイメージを作りやすいのですが帰って混乱しそうなので時間のままいきます)まず大切なのは


・シュラッター図による分析は何のために行うのか


を理解しておくことです。初めは、図の書き方と計算処理を覚えてもよいのですが、意味を理解しなければすぐに忘れますし、総合問題はできるようにはなりません。この分析の目的は


無駄にかかった経費が誰の責任なのか?を考え
無駄を出した責任者をしばいて、効率化する(ボーナスが払われる場合もあるでしょうが)


ためですね。製造業では大まかにいって
・製品を製造する
・製品を売る
の2つのステップがありますから、責められるべき原因は


①工場の作業員がさぼって作業をしたから能率がおちた
②営業部隊がさぼったために、工場のキャパ一杯まで生産する意味がなくなり、工場の能力が遊んでしまった
③工場の投資を決めた人間が需要に比して大きすぎる工場を作り、工場の能力が遊んでしまった


のどれかですね。まあ、②と③はシュラッター図からは区別不可能なので分析の軸としては①or②+③になりますね。そこが理解できればシュラッター図はとても自然な図に見えます。まず、無駄にかかった金額の総額は


実際にかかった金額−正常配布率(=変動比率+固定比率)×実際作業時間
             ↑
          正常な状態なら1時間あたりかかる金額


ですね。この無駄を
・工場作業員の作業能率低下によるムダ
・過大な設備投資、ないし営業部隊のさぼりによる工場の遊休によるムダ
に分けないといけませんね。本当は1000個作れる工場で働いている工員にとって


・今月は500個作れ


っていわれたら、工場が遊ぶ分の無駄は


・俺らの責任じゃねえ


ってことになりますし、予定通り受注をとってきた営業部隊にとって


・いやあ、今月工場で生産コストがかかりすぎたから利益なくて、君らの歩合給ないわ


ってのは受け入れられません。ですから、工場の人間の責任差異(予算差異)と工場投資を決めた人間+営業部隊の責任差異(操業度差異)にわける必要があるのです。すなわち理解のイメージは


予算差異=工場の作業員のサボった分
    =実際変動費−本来かかってよい変動費(=実際作業時間×変動費率)
    =実際発生費用−{固定費+本来かかってよい変動費(=実際作業時間×変動費率)}
      ↑               ↑
  固定費+実際変動費        予算許容額



操業度差異=過大な工場投資ないし営業部隊の受注減による工場の遊び
     =かけすぎた余計な固定費
     ={基準操業度(=目いっぱいやればこんだけ作れる)−実際操業度}×固定費率
                    ↑
         この{}の中身が②+③でできた無駄の時間です


です。予算差異と操業度差異という言葉のみかけにまどわされず、「工場の人の責任の分」と「工場投資を決めた人、ないし、営業部隊の責任の分」というイメージがつけばシュラッター図はわかりやすいと思います。まず、シュラッター図があるのではなく、何故そういう差異分析をするのか、という主旨があり、シュラッター図は単にそれをわかりやすく具現化した手段である、と理解しなければ前に進みません。標準時間が入るともう少し話は複雑になりますが、基本的には同じような考え方です。


シュラッター図はとてもよくできている図なので、いったん理解できるととてもわかりやすく、分析した差異が「何の目的で何を意味するのか?」とセットでわかればとても便利です。複雑になればなるほど威力を発揮しますので、ぜひがんばってください。

2.管理会計論が苦手になる理由、得意にする方法

管理会計論は、簿記と異なり「企業が企業の発展のために、自由にやればいい」ものですから、決まったルールと方法論がなく、従って上の例で述べたように「主旨と意味」を理解せずに処理を暗記して乗り切るのが難しいのです。ですから、「簿記」をわりと「反復的な問題演習量」で乗り切るタイプの方は苦労されることが多いと思います。やり方が自由な分


何のために行うのか?何故そんな処理なのか?


を常に強く意識する必要があり、そしてこの「理解」の作業はできるだけ早い段階でやってしまいたいのです。何故なら、また来年の試験までたくさん問題演習をすることになるわけですが、その問題演習のプロセス全てが


・意味として理解できている人は、常に意味が頭の中で反復され、理解が増強される
・意味として理解できていない人は、常に暗記した計算処理が頭の中で反復される


という差を生み、回数を重ねるほどに理解度の差は開いていくからです。ですから、上の段落の説明を読んでいただいたときのリアクションは


・なるほど、そういう意味だったのか
・ん?何当たり前のこと説明してんの?(すでに意味を理解されている方)


の2つに完全に分かれるはずです。(それ以外にも、わかりにくいよ、ってリアクションがあるんですがそれはいいっこなしってことで)私はTAC生ですが、正確な名前は忘れましたがTACの管理会計論の演習コースに「なるほど、納得、管理会計論」みたいなコースがありますね。その名前が全てをあらわしていると思いますが、


理解して納得する


ことが大切です。


3.で、どうしよう?

そうすると、実際に「意味を考えるのが苦手な方」はどうすればいいか?が問題になりますね。実は予備校にも、「計算の処理」を中心とした説明している先生がたくさんいらっしゃいます。(受験生の身としてはおこがましい言い方なのですが、私の普段の教師としての経験からするとそう見えるのです)無論ベストチョイスは、


先生が計算の処理だけ説明していても自分で納得するまで意味を考える


ですが、これはかなり数学や数字に強くないと苦しい方法論です。最低限、常に「主旨を考える」ようにはしたいところですが、得意不得意のわかれるところです。ですから、現実的には


質問の仕方を工夫する


ことが大切かと思います。
私は、普段塾で、高校生に数学を教えておりますが、実は、質問にうまく答えるのはうまく授業をするよりも難しいのです。授業は自分の計画に従って進められますが、質問に上手く答えるには「その場で生徒を観察し、問題点を把握して、その問題に対する応対をその場で考える」ことが必要だからです。ですから、質問の応対は、授業以上に技術の差がでるところで、経験を積むに従って


・聞かれた問題を端から端まで解説する
     ↓
・聞かれた問題のうち、生徒が困っている部分のみ解説する
     ↓
・聞かれた問題と生徒とのやりとりから、本質的に困っている内容を推察し、それに答える


とスタイルが変わっていきます。。「専門知識」の違いというよりも「観察力」の違いにより質問に答える力が変わるのです。同じ知識を持っていれば、焦点をあわせて答えられる先生のほうがわかりやすいのはよく考えれば当然です。


返事に2週間かかるということは、「郵送」でしょうか。実は「郵送」の質問の最大の難点は「期間」ではなく、コミュニケーションがワンウェイになることです。どんなにすばらしい先生でも、手紙やメール一本で、「本当に困っている原因は何か?」を見抜くのは難しいはずです。
電子メールは便利ですが、あって話したほうが早いことがよくありませんか?帰ってきた質問用紙を見て「うーん、いろいろ書いてあったけど、今イチ疑問が解決されない」とお感じになったことはありませんか?一方通行×1回のコミュニケーションで、疑問点を正確に伝えるのはかなり難しいのです。その意味で意味の理解が重要な管理会計は「通信+郵送の質問」だと、ちょっと勉強がしにくいのです。


質問をする方は当然「わかっていないこと」を質問しますので当然「表現があいまい」になりやすく、実は、本人がわからないといっている所と別のところが本質的にはわかっていない、といったことは日常茶飯事です。ですから私は、質問がくるとまず目の前で解かせたり、さらにいくつか質問をしたり、会話をして、「結局どこがわかっていないか?」を突き止めるのに時間を費やしますそこで本質的にひっかかっている内容を特定できれば、質問にはもう8割がた答えられたも同然で、それ以降は「専門知識」を持っていますから当然答えられます。


ですからsakurakoさんは、もし可能であれば「やりとりをしながら直接質問ができる環境」を目指されるのが一番重要かと思います。もし会社帰りに校舎によることが可能であれば時間割を入手して、講師の先生のスケジュールを掴んでに直接質問すべきだと思います。それが不可能であればsakurakoさん自身が一回の郵送でできるだけ「質問上手」になる必要があります。(直接質問をされる場合も同じですが)ただ、問題の解法を質問するだけでなく、その分析や手法の意味を自分なりに考えた上で、「この差異を求める理由は何ですか?」、「非累加法を採用するのはどういった場合ですか?その理由はなんですか?」「度外視法はどういった時に多く使いますか?」等の質問を通して、主旨の理解に努める必要があると思います。(そういった質問に手紙やFAXで答えるのはかなり大変なのですけれども・・・。講師ではなくチュータークラスの方が答えている場合も多いでしょうし)
あとは、学習仲間がいらっしゃいますか?ある程度、話をしたり、質問ができる学習仲間がいらっしゃるといいのですが。


結局、抽象的な答え方になってしまいましたが、参考になりましたでしょうか?個別の問題に関しては、またコメントいただければわかる範囲でこたえてみますね。職業が先生ですから、質問に答えるのは好きなものですから。