効率的な勉強方法を考えるPart10 〜仕訳忘却防止=理解への道〜

おととい、mixiで遊んでいたら受験生の方から「日記がとても参考になりました。マイミクをお願いしてもよいですか?」といったメッセージをいただきました。私は「話を聞いてくれる人」がいてナンボの人間なので、とてもうれしく、またがんばって書こうという気持ちになりました。sakurakoさんのコメントに対する返信を考えているときも結構テンションあがります。反面


内容のある記事を書かないと


とか頼まれてもいないのに勝手にプレッシャーを感じたりもします(笑)。


今日は簿記のトレーニングについてもう少し詳しく議論して見ます。簿記は「多くの時間をさくことになり(量が多い)、かつ、自習時間とアウトプットが多い(質に差がつきやすい)」ため、その効率化が最重要課題であるからです。多くの時間がかかることを効率化できれば、全体を効率化できることは自明ですし、自習、特にアウトプットは人によってやり方に差が出ますから「質」が人によってまったく変わります。(「講義」の聞き方にはさほど差はないですよね)


今日の内容は、わりと簿記が苦手で、特に


「習った時は仕訳が切れるけれども、しばらくたつと仕訳がきれなくなる」症候群


の人向です。


今回は結構長編です。非常に基本的で当たり前なことを述べていますので「何を今更」って感じる方もいらっしゃると思いますが、それだけに実践できていない方にとっては、いいことがかけた(?)と思います。書き終わった充実感(?)あります。参考にしていただければ幸いです。


この内容は
効率的な勉強方法を考えるPart1 効率的な勉強方法を考えるPart2
効率的な勉強方法を考えるPart3 効率的な勉強方法を考える番外編
効率的な勉強方法を考えるPart4 効率的な勉強方法を考えるPart5
効率的な勉強方法を考えるPart6 効率的な勉強方法を考えるPart7
効率的な勉強方法を考えるPart8 効率的な勉強方法を考えるPart9
の続きです。読んでいただける方はそちらからどうぞ。




以下本文です。

25.掘り下げの目的と軸


今日は最も時間のかかる簿記に焦点をあてて考えます。基本的な方法は効率的な勉強方法を考えるPart7の§19で、その理論背景については効率的な勉強方法を考えるPart3の§11、12あたりで述べていますが、もう少し突っ込んで方法論に関する議論をしてみます。


まず、目的は当然


1に効率化、2に効率化、3に効率化


です。それだけです。それから議論の軸ですが


理解をしやすくなるための具体的な方法論とその理論背景


です。以前も述べましたが、「理解することを大切にしよう」というのは一見アドバイス風で、実は何のアドバイスにもなっていないと思いますので、できるだけ方法論を軸に具体的に書いてみます。



それから、私の書き方を「くどい」と感じていらっしゃる方が結構いらっしゃると思います。これは、先生としてのクセなんですが、できるだけ多くの人に理解をしてもらおうとするとどうしても本質的に同じことを表現と切り口を少しずつ変えて何度も繰り返し説明するというスタイルになるんですよね。「くどい」と感じる方すいません。


26.長期的にできるようになる学習法 〜復習〜

長期的にできるようになる学習方法のポイントは大きく分けて


短期記憶に記憶があるうちにがんばって復習をして理解をし長期記憶に変換する
理解しやすい方法論を実行する


です。前者については何度も述べていますので省略します。後者に関しても、効率的な勉強方法を考えるPart7の§21で一部述べましたが少し表現を変えて復習しますと


人間の集中力の総和は一定


ということです。例えば、バレーボールではレシーブ、トス、アタックといった基本的なプレーが無意識にできるようになって初めてそれらを複雑に組み合わせたコンビプレーが成立します。基本的なプレーを(無意識に=集中力を配分せずに)できるようにならないうちは、それらを組み合わせたプレーはうまくできません。それと同じで、仕訳を切ることは無意識でできる状態にならないと、意味を考えたり、理解することに集中することはできません。


ここまでの話も重要なのですが、あくまで「状況を整えることで理解を助ける」という方法です。今日は、「理解するプロセスを直接分析する」ことから「理解すること」の意味を理解し、そこから「理解しやすい方法論の整理」について論じてみたいと思います。(また大それてます)


27.「理解のプロセス」の分析及び「理解すること」の理解

まず、記憶に関してポイントとなる事実は


忘却する速度が速いという短期記憶の短所
理解やネットワーク化なしに叩き込めるという短期記憶の長所
理解やネットワーク化をしないと定着しにくいという長期記憶の性質


です。各会計事象と仕訳に対して理解のレベルは大別して


レベル0 そもそも仕訳が切れない
レベル1 意味はわからないがなんとなく仕訳が切れる
レベル2 仕訳を切ることができ、要素を理解する
レベル3 仕訳の構造的な意味を理解し、仕訳は忘れても導ける


くらいに分かれると思います。全ての会計事象に対して明確に3レベルに分けられるわけではないわけですが、大まかにはこう分類できるものが多いと思います。入門の方で読んでいただいている方もいらっしゃるようですから、やや簡単めの例で説明します。


例えば来期に返済する予定で資金を調達して利息を前払いしていた場合、期末に「前払利息 100  支払利息 100」といった仕訳を切りますね。このときに、この仕訳を切れる人は大別して


レベル1 何かわからんけど、やったことがあって覚えているからこの仕訳を切れる



レベル2 借方と貸方の仕分けがどういった要素であるかは考えながら仕分けが切れる
      (=各仕訳の暗記ではなく、一般的な簿記要素レベルでの理解ができている)

       前払利息 100   支払利息 100
      (経過的に資産計上)  (費用の減少)


レベル3 資金調達による効用は今期と来期で費消するため、期間損益計算適正化のために支払った金額を全部費用(フロー)化せず、一部資産(ストック)計上して来期の費用にくりこしている、と頭で理解しつつ仕訳を切る
(=なぜ、その簿記要素の組み合わせの仕訳をきるのかを、すなわち目的と仕訳の関連を理解する)


と分類できると思います。すなわちレベルが高い状態の方が「より普遍的な表現や考え方になっている(抽象化されている)」といえ、この場合ではレベル2以下は理解を伴わない記憶(主に短期記憶)で、レベル3が理解を伴う記憶(主に長期記憶)に分類できると思います。レベル2以下だとそのうち忘れたり、ポカミスをする可能性はありますが、レベル3になっていればミスをする可能性も忘れる可能性も低いですし、万一忘れてもその場で仕訳を考えられます。さらにいえば、他の経過勘定もいきなりわかるようになります。(理解していないうちは、「見越し」とか「前払い」とか「未払い」とか言葉が混乱した記憶がありませんか?意味が先にわかって、そこから言葉が出てくるようになれば混乱しなくなりますよね)さらには


レベル3の人は、仕訳を切るときに頭の中では意味として確認されているので、以降はあまり意識しなくても理解がどんどん深まり、定着していく


というのも魅力です。ですから、できるだけ早い段階でレベル3の状態にする必要があるわけで、そしてここが重要で


レベルが1になっていないとレベル2にUPする挑戦権が、レベル2になっていないとレベル3にUPする挑戦権がない(少なくとも確率的には小さい)
レベル2以下の場合は(特にレベルが低い方が)時間とともに(短期)記憶が忘却されレベルが下がる確率が高い


といえると思うのです。

29.理解の全体像と方法論

以上の議論から、理解を重視した学習のステップの踏み方としては


STEP1 丸暗記でもいいから仕訳を切れる状態にする
STEP2 仕訳を切りながら、頭の中では簿記要素(資産、負債、資本、費用、収益)に読み替えるようになる
STEP3 特に、ストック、フローの違いに注意しながらその仕訳の目的となぜそういった仕訳になるかを考える
      ・期間損益計算(P/L)の適正化(フロー(収益・費用)の適切な期間配分)
      ・1時点での適正な資産評価(B/S)(ストック(資産・負債)の適切な評価)


と分類されると思います。これは私の想像ですが簿記がなかなかできるようにならない方、習得するのに時間がかかる方にはSTEP2を習慣化できていない方が多いのではないでしょうか?苦手な仕訳は切るのにいっぱいいっぱいで「簿記要素」という認識はできていないのだと思います。そして、このステップをクリアできないと仕訳の意味は絶対に理解できるようにならないのですなぜなら、最終目的のP/LとB/Sが簿記要素の合算で構成されるため、そのステップをクリアできない限り、個々の仕訳とP/LおよびB/Sのイメージがつながらないからです


そこがクリアできれば次はSTEP3です。これはSTEP2よりはやや難しいのですが、STEP2をきちんとクリアし、かつ簿記自体の目的を考えれば何をするべきかはだいたい見えてきます。そもそも簿記で仕訳を一生懸命切るのは、最終的には適正な(連結)損益計算書及び(連結)貸借対照表を作って適正な財務報告をするのが目的ですP/LとB/Sは仕訳をあわせればできるため、仕訳の切り方を決めればP/LとB/Sは決まります。ですから、「適切な仕訳」とは「合算すれば適切なP/LとB/Sが作成されるような仕訳」であるといえ、従ってきった仕訳がP/LやB/Sにどうつながるかをイメージしない限り、なぜそんな仕訳になるかは理解できないのです。もう一度まとめると仕訳は



  各取引に対して仕訳を切る→簿記要素ごとに集計する→分類されてP/LまたはB/Sを構成する



と流れていくため、「①各仕訳 ②要素としての理解 ③P/LとB/Sとのつながり」 の3点セットで考えないと理解することは難しいと思います。結局、主張としては


仕訳を切るときに、簿記要素をしっかりイメージする
その簿記要素と財務諸表がどうつながるかをイメージする
上記2点に集中力をついやすために、短期記憶が存在するうちに復習する


の3点です。2つ目は難しいのですが、1つ目と3つ目は習慣にすれば必ずできます。あとは実行する精神力を自分の中からひねり出せるかの問題とだと思います。(この記事を書いた次の日に、実行できそうな方法論を思いつきました。効率的な勉強方法を考えるPart11に書いてありますので、そちらとあわせて読んでみてください。)この3つの結論はよく考えれば当たり前のことであり、非常に基本的なことですが、もっとも時間のかかる簿記だけにその効果は非常に高く


洗練されたる基本に勝るものなし


です。もう10年ぐらい人にものを教えることを仕事にしてきましたが、この一言は自信を持って断定できます。


簿記は時間ばかりかかってなかなか前に進まない、という方は効率的な勉強方法を考えるPart7の§19で述べたやり方とあわせて、一度実行されてみてはいかがでしょうか?この方法は自分でやっていても「負荷」は高いと感じていますが、人間の能力は全て「負荷」がかからないと伸びないわけですから、本質的には「楽に力が伸びるトレーニング方法」は存在しません。私はこの方法は非常に時間効率がいいと感じていますが、もし本当に時間効率がいいのだとすれば、それは密度をあげることによって短時間に強い負荷をかけているからです。万人にあうとはいえないかもしれませんが、たくさん問題を解き散らかすよりは効果的だと思います。




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効率的な勉強方法を考えるPart11に続く